カテゴリー「■セールス秘中の秘」の18件の記事

2006.06.09

セールス秘中の秘18   ~エピローグ~

1971年9月11日土曜日の朝礼・・・・

契約2本・・

主任に約束した10本を達成した・・・・それはベテランの営業マンでも難しい結果を出した。
毎日が地獄と天国を行き来する激しい毎日、僕を信頼してくれて契約にいたったと言うこと。

恐れていた訪問販売のセールスの世界に僕はいてそれなりの成果をあげることができた。
満ち足りているという感覚、そんな中にいた。

今日は目標数値はなしである。
新人教育と、主任の幹部教育の半年間の締め切りが終わり今日は各自自由に行動してよくまあゆっくり休めと言うことである。

朝礼のあと、もと居た会社へでも行ってみようと思って阪神電車で福島まで行く。
そこからぼくにとってアイドルだったR子に電話をする・・お嫁に行くとひとづてに聞いていたからだ。

会社近くの喫茶店で落ち合う・・僕はセールスの経験を熱く語る。
彼女は結婚を決意するまでの悲しい悲しい物語を話し、以後生涯このことは口に出さないと彼女は誓う。

「ミシンを売って!それ持ってお嫁に行く!」

あわただしく契約を済ませ、店を出る・・・・・。

「じゃあ元気で!」

彼女は敬礼をしながら、

「セールスマンさん!がんばって!」

僕は彼女のほうを向いたまま後ろ向きで離れていく・・・・・
そのまま僕は大きくお辞儀をし

「ありがとうございました!」・・・・・・・・・・・・

頭を上げて彼女を見るとその目から大粒の涙があふれてぽろぽろこぼれていた。

「僕もがんばるよ!」っていうのが精一杯で・・・

手を振りながら笑顔で後ろに下がっていく・・・・・・・・
そして踵をかえし背を向けて歩いていった・・・・・・
しばらく行き振り返ると彼女はまだそこに立っていて手を振っている・・僕も手を振り、角を曲がる・・・・


しばらく行くと小さな公園がある。

僕はそのベンチで腰をかけ空を見上げる・・・・あたたかい日差しが僕を包む・・・・・・あーーあたたかい。
・・・・ひゅんひゅんひゅんひゅん・・・・

・・・わんわんわん・・・わんこが走って来る・・・あーーあたたかい・・・空を見上げる・・・・・秋の空は澄み切ってどこまでも青かった・・・・僕はセールスノートをひろげ便箋をだし、手紙を書く。


お手紙ありがとう、それはとんでもないシーンで届き僕を救ってくれました。
あーー明日は僕の29才の誕生日・・・何かをねだってるわけではないんですけど、なんかどきどきしてます。
お願いがあります、そのとんでもないシーンを聞いて欲しいな。
場所は上六のトロイカ。ではでは。


セールス秘中の秘~完~

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2006.06.08

セールス秘中の秘17   ~角を曲がれば~

契約の目標まであと1本となったのだが、もうすっかり僕は満足していた・・・・
やるべきことは精一杯やった。

駅のほうへ僕は先ほどの感激の余韻に浸りながら歩いていった。
契約の本数をぎらぎらと追いかけていたことに半ば恥じていたという感覚であった。

目標は達成できなかったけど、それなりに色々な経験をしてセールスでやっていける自信もできた。
小心者の僕はいつもポーズをとりながら生きていた。
このままでは何も変わらないと気がついた・・・見知らぬ世界を冒険してみようと思い立った。

道ははるかに遠いけどとうとうこんな場面の夜の道を星を眺めて歩いている・・・・・・・・

秋の冷えた町を僕は静かに静かに駅へ歩いていった・・・・・・

駅に近づいて行くに従い、あと1本だなあという思いがふつふつとわいてくる。
もう少しがんばるか・・・・そう思い直しては見たが夜の町は寒くしっかりと戸はしめられ拒絶しているように感じ戸を叩く思いになれずそのままとぼとぼと歩くのみだった。

その先の角を右に曲がれば駅だ・・・・・・・・・ああ終わりだ・・・・・・・・・・・・

そのとき一軒の家の戸が開いていてそこから廊下が見える・・・・・・・そしてその廊下にわが社の古いミシンがおいてあるのが見えた・・・・

僕は気がつくとその家に上がりこむところだった・・・・
「まいどおおミシン調子どうですうう?点検しときましょう」

奥から奥さんが出てくる頃には椅子に座りミシンのカムを取り出し点検していた・・・・・・
「あーーみしんやさん・・・・・そう調子悪いんやわあ」

「あーーそうでしょう、油切れていてほらこのカムぜんぜんまわらんもん・・油あります?」
僕はどんどんミシンを分解し、油で洗い、組み立てていった。

しゅーーん・・・小気味良い音でミシンが復活する・・・・・
「あーー奥さんまだ使えますよお」

「あーーありがとう」

「あっ!灰皿ありますう?」

僕は床に座り込みタバコとライターを出す・・

おろおろと奥さんが灰皿を持ってくる・・・・・・・

「あーー奥さん今はねえフリーアームとコンピューターの刺繍のミシンですよ!修理代やとおもってとりあえず貯金はじめとってください、月2000円づつでいつでもほしいときにミシン取れますから」

何回かのやり取りがあるが僕は頑として引き下がらない。

「ここにはんこだけでいいですから、初回金は締め切り感謝デーとして僕が負担しときますし、お願いします!」

奥さんは根負けしてとりあえずはんこ押しとけばこの場は終わるとばかりに奥からはんこを持ってきて押す。

「すみませんねえありがとうございます」

夜は9時を回っていた・・・
少しの後ろめたさと、豹変したセールスマンのできばえに僕は満足していた、はははは。

そして・・・・・道の先の角を曲がった・・・・・・・・・・・・・

国鉄環状線の内回りはがらがらであった・・・・・安治川大橋を渡る・・・・・

ごととんごととん・・・・・・つり革がゆれる・・・・広告ポスターが風にはためく・・・・・・車掌の声が流れる・・・
向かいに座るサラリーマンが新聞を読んでいる・・・・・ひゅんひゅんひゅんひゅん・・・・・・・・・・・

窓の外に光が走る・・・・鉄橋の鉄骨が流れる・・・その先に安治川の水面が貨物船の灯りに照らされ波立っている・・・・・遠く天保山の灯台の点滅・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごととんごととんごととん・・・・・・・・・・・・・・・

ああ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・人生は不思議が一杯で素敵だ。


本日の成契2本   目標10本達成。

~角を曲がれば~完

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2006.06.06

セールス秘中の秘16   ~人は人と過ごす~

奥から足を引きずりながらゆっくりとこちらに向かってくるご主人が口を開く・・

「おまえなあ・・・・」

それは重く低く諭すような響きを持っていた・・・・・
僕はあーーもうだめだ・・そういう事情があるのにくどくど契約を迫ってしまった。
怒られて当然だ、どのように謝ったらいいのか途方にくれてうつむいた。
そしてあとに続く言葉はその響きと共に生涯忘れることはないだろう・・・・・・

「おまえなあ・・・・・・・ミシンはお前のたったひとつの趣味やろ?・・・・・・・
貯金してからと言ってたら結局買えないように思うなあ、今からはじめ取ったらきっと買えるやん・・・・・・・・・・・はじめといたらええ・・わしのことは大丈夫やから・・・・・」

奥さんがこぼれるような笑顔で答える・・・・

「えっ!ほんま?・・・・いいかなあ!うれしいありがとうそうしょうか!・・・・ほんならミシン屋さんお願いします」

僕は思いもかけない展開ではあったが瞬時にその夫婦その子ども達の人生を感じ、感動していた。

気を取り直し慌しく契約の書類を作る。
「奥さん締め切りで無理いいましたので初回金サービスしときますから」

「ううんええ、ええ、大丈夫払っとくから、私もうれしいねんから・・ありがとうね」

あーあー僕はこのことのため今ここにいるのだ・・・・・・・・・・。

僕は夫婦に深々と頭を下げ町工場を後にした・・・・・
町はすっかり夜となっていて、秋の気配で冷え込んでいた。

僕はとぼとぼと歩いた・・・・それは今までとまったく違う不思議な感覚であった。
契約はあと1本になったのだが、なんとなくそんなことは超越してしまっていた。
もう十分だ・・・そんな思いで、駅に向かって粛々と歩いていった。

~人は人と過ごす~完~

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2006.06.05

セールス秘中の秘15   ~前に倒れろ~

やるだけのことはやるんだ、残り2本の契約が大切なのではなく、逃げなかったかどうかだ。
すべては自分の手の中にある。
僕は最後の力をふりしぼり走った。

弁天町で国鉄環状線に乗り換え西九条についたときは日はすっかり落ちてわずかの空の明るさと裸電球の街灯が道を照らしていた。

以前、古いミシンを調整してあげた家がある。
小さな町工場にご主人が勤めその2階に家族で住んでいる。
奥さんはミシンが好きで子供たちの服を作るのが趣味だ。
いいミシンがほしいといっていたことを思い出し、とにかく行ってみようと思った。

工場の前に来たときもうシャッターは少し下ろされ、奥さんが表の掃き掃除をしているところだった。

「あーーおくさん!その後ミシン調子どうですう?(^_^)」

「えっ?・・あーーミシン屋さん・・・うん、ちゃんと動いてるよ!」

「そうですか、ところでそろそろ新しいミシンどうです?、フリーアームが家庭用で初めてできたんですけど売れてますよお、袖周りの刺繍までコンピューターがやってくれますから娘さんの洋服も一段と素敵になるんちがいます?・・実は今日締め切りで最後のサービスしときますよ」

「えーーっ?でもなあ、あんまり余裕ないし、まあ貯金しといて、いるとき現金で買うし」

「今はミシンは月賦でためていっているとき最新式のものをとることができて貯金より数倍利息がつく計算で一番お得なんですよ!」

「うーーんでもね、ここへ毎月集金にこられると工場の人に迷惑かけることになるからあかんねん、やっぱりいるときは現金で買うし、そのときはおにいちゃんから買うから」

聞くところによると、ご主人は足が悪いのだがやさしい社長さんに助けられ家族で2階に住まわせてもらっているらしく会社に少しでも迷惑をかける事になることを恐れているようであった。

「まあそこんとこをなんとかお願いしますよ、集金の日と時間を決めておくとかしますから、お願いします!」

「ごめんな、やっぱりむりやわ」

あーーむりかなあ、もうすっかり暗くなったし、もう次はない・・・なんとか頼む方法はないか・・・・・・

そのとき事務所の奥の机でなにか仕事をしていたおじさんが立ち上がってこちらに向かってくることに気がついた。

足を引きずりゆっくりと歩いてくる・・・あーーーこの人がご主人だ・・・しまったいろいろしつこく奥さんにしゃべっていたこと聞かれていたんだ・・・怒られる・・・しまったもう帰ろう・・・・・

僕がセールスをやるんだと決めたことはそこで成功するためなんかではなかった・・・いつでも逃げることはできた・・・・でもここまでやってきてしまった・・・それは僕の意思というよりもなにか大きな力・・たとえて言えば未来の僕を信じていたといえる・・・時空を超えて未来の僕に報告するとき僕にだけはうそがつけない・・だから逃げない・・・・・・倒れるときは前に倒れるんだ・・・・・きっと僕だけは許してくれる・・・・・

ご主人がこちらに向かいながら口を開く・・・・

「おまえなあ!」


~前に倒れろ~完~

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2006.06.02

セールス秘中の秘14   ~残照の町~

疲れきってすべては燃え尽きていた・・・そのまま深い眠りにつこうとしていた。

締め切った雨戸の板の隙間からは残照の町の明かりが差し込んでいて万年床の僕を照らす・・・・・・・・・・ひゅんひゅんひゅん・・・・・・・時空を越えたづっとづっと未来から光が何度もやってきて僕の眠りを妨げる・・・・・・・・

寝返りをうっては枕もとの手紙を読み返す・・・・そのとき枕元に一冊の本があった。
セールスマンにあこがれたとき買った数冊の本の内の1冊だった。昨夜泊まりに来た「きたろー」が本棚から取り出して読んでいたのだろうか・・・・
何気なく読み出した・・・・・その本は当時僕がいた会社のトップセールスマンが書いた本だった。

「セールス秘中の秘 私なら15分で売る」

買った時は別の世界のこととして読み流していた本だったが今それは魂の奥底までしみわたった。
ここまでやってきたことをすべて彼も経験していた・・・苦しい苦しい営業を続けていた・・・・一気に読み終えた。

ああ・・・・・・やるしかない・・動かなければ何も変わらない・・・・諦めたときが終わりなんだ・・・・それは言葉としてでなく魂の叫びとなって僕を揺さぶった・・・・・体中から不思議な力がみなぎってくる・・・・・・

行くぞおおおおお!!!!!!僕は大声で怒鳴っていた。
がばっと起き上がった僕はセールスノートを抱えて表のシャッターを思いっきり開ける。

がらがらがらああ・・がっしゃーーん!
家もろとも壊れよとばかりにシャッターを降ろす。

西へ走る、少年のころの遊び場千舟橋を渡る。
西に沈んだ太陽の残照が赤く空を染めている。
その先の逆光に黒くそびえる地下鉄大阪港高架駅に僕は走っていった。


~残照の町~完~

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2006.05.31

セールス秘中の秘13   ~残暑の夕闇~

渾身の営業であった。
僕が持っているすべてを出した。
絵をほめ、趣味の話をし契約へと話を持っていくがなかなかその先へ進めることが出来ない。

でもここで諦めたらすべてが終わる・・・そんな気がしていた・・諦めるわけにはいかなかった。
その奥さんは契約へ持っていけそうな感じで気さくに話を聞いてくれる・・・だからもっと諦めるわけに行かなかった。

時間が経つ・・・・もう4時に近かった・・・少し焦りが出てくる、今日は2本契約を取れなければ今までの頑張りが色あせてしまう・・・・・焦りが出てくる・・・ダメかもしれない・・・・
おくさんは内職をしながら話はづっと聞いてくれていた。

「おくさん・・お願いしますよ・・今日が締め切りで、・・」
「うーーんやっぱりやめとく・・・本当はな入る余裕はないねんけど、おとうちゃんはセールスマンの話は聞いとくだけでも勉強になるからっていうねん・・せやから聞くだけ・・・ごめんな」

「はあ・・まあ僕も勉強になりますう・・・・・・はははは・・・・・」
諦めたときが終わり・・・・・そんな確信めいた言葉だけで理解していて僕は無我夢中の世界に翻弄されていた。
急激に心がさめていく・・・だめか・・・・・・・・・・・・・・・

「どうも・・・おくさん・・・長い時間すみませんでしたあ・・・・・・・・・・・・」

その家を後にした・・・・日は大きく傾き、残暑の太陽は光を失い僕を照らす・・・・・・

あーーー疲れた・・・・もうだめだ・・・僕はセールスはやっぱり無理だ・・・・・・・疲れた・・・・・・・・・あーーーつかれたあ・・・・・・

とぼとぼとどこまでも歩いた・・・気がつくと家までたどり着いていた・・・・・・・
親父がこつこつと廃材を集め作り上げた家だった、その家をサラリーマン時代に改造して洋品雑貨の店をやっていたが、もう閉めて長い・・・表は全面シャッターとなっている・・・・
そのシャッターをやっとの思いで持ち上げ少し出来た隙間から逃げるように入る。

近所に聞こえないようにそっと降ろす・・・・
そのとき2通の手紙が届いていることに気がついた・・・・・

1通は春東京へ遊んでいたときに知り合った女性の手紙。
もう1通は日本海で声をかけ前の日曜日家に遊びに来た4人組の一人「チェコ」からだった。

部屋に入り、封を切る・・・・・それは当時としては精一杯の手紙であった。
その手紙を畳の上に投げ出し僕は途方にくれて万年床に滑り込む・・・・・・・・・・・・

あーー僕はダメな男だ・・・・・・・・疲れた・・・ごめんよ・・・・あかんたれだ・・・・・・・もうなにもかもおわり・・・・
夕闇迫る部屋で僕は布団のなかで目をつぶる・・・ねることもかなわず寝返りを打ちつづける・・・・・・・・・・・・

あーーだれかたすけてくれーーーー。


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2006.05.28

セールス秘中の秘12   ~最後の戦い~

1971年9月10日金曜日が梅田支店の準優秀販売員資格取得の締め切り最終日であった。
朝礼の報告。

成契1本・・・・本日の目標2本・・・・・
昨日までの流れが勢いを失っていたがその表情や声にも確かに表れていたに違いない。
それは単に契約が1本だけだったということだけではなくて、昨日の昼からの営業がまったくしていなくて無駄に貴重な時間を過ごしてしまったという後悔や楽をして契約をとろうという甘さを感じて打ちひしがれていたのだ。

今日が最後の戦いの日だ、心を切り替えてがんばるしかない、あと2本なんだ、づっとそれを実現してきたではないか。

昨日も二人組みの女性に出合ってなければしっかり営業活動してきっと契約は取れていたはずだ。
僕はそう自分に言い聞かせて、今日は絶対に2本取る!・・それで主任と約束した10本に到達だ。
それは単に主任との約束という以外に自分との約束なんだ。

僕は意を決して出かけていった。
最後の戦いの場は地元港区だ。
地下鉄で朝潮橋まで行きそこから西へ西へと訪問活動をしていく・・・・・
なかなか成果が上がらぬまま昼過ぎには市営住宅の西の端まで来ていた・・・・・・・・・
そこに見込み客があった。

以前よく話は聞いてくれて、主人と相談しとくというような展開でうまくいけば何とかなるとその玄関の戸を開けた。

「まあいどお!(^_^) ミシン屋でーーすう(^_^)・・うわーーこのこけしかわいいい、白浜のおみやげですかあ!!」

今までの28年の人生のすべてを出しきる最後の戦いの日の始まり・・・・そしてそれは思いもしない展開となっていく。

ああ人生は不思議がいっぱいで素敵だ。

~最後の一日はつづく~

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2006.05.25

セールス秘中の秘11   ~覚醒~

鴨がねぎを背負ってやってくる・・・・期待はどんどんふくらむ。
二人が来たら最低1本取れれば今日の目標は達成だ。
二人とも入ってくれる公算は大きいそしたら明日の残り2本の1本は間違いない。

友達連れてくるって言ってたから、一人連れてきたらそれで全目標達成だ。
そして一人2本契約なんてことになったらもう僕は来週遊んでいてもいい。

僕はセールスとしてとんでもない領域まで進化しているのかもしれない・・
セールスの一つの悟りの領域だ・・・・・・・・・・

うん?5時半だぞ!??たしか5時に終わるといってたなあ・・・・・・

着替えてお化粧してるからまあ30分はかかるわな・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・6時すぎたでえ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・?・・・・・・・・・・・・・・・・・?・・・・・?・・・?・・・?・?

・7時やんけえ・・・・あかん・・・すっぽかされた?・・・・・
わーーーーーーーーーー・・・はは;はは;;・・・・・・・・・・・・

・・・さっ!ゆっくり出来たし今日は帰るとするか・・・・・・・・・・・
金を払って喫茶店を出る・・扉につけられたカウベルの音がぎゃらんぎゃらんと
僕を笑うようにうるさく鳴る・・・ぎゃらんぎゃらんぎゃらんぎゃらん・・・・・うーーーーーーーーーーーーーー

環状線が安治川大橋をわたるころ僕は夢から覚めて、後悔と挫折と孤独の中で
立ち直れないほど打ちひしがれていった。

本日の契約1本、ダメ男一人、目標達成まで残り1日2本 立ち直れるかダメセールスマン!

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2006.05.24

セールス秘中の秘10   ~鴨がねぎを~

木曜日の朝礼

「契約2本!内出荷一本、本日の目標2本!」

僕は淡々と報告をする・・・うれしそうな表情を押し殺てはいたが自慢げな表情は見抜かれていただろう。
まあでもそれだけのことはある結果を出してきた。

主任と約束した10本まで今日と明日で3本でいいのだ、楽勝だ。
事務手続きを終えて営業に飛び出す。

今日は西九条の見込み客のとこへ行こう。

「まいどおお!」
「あーおにいちゃん」
「あーー明日締め切りでね、もう覚悟きめて契約しとってくださいよ。いやホンとは2本契約といきたいとこですけど一本だけで許しといてあげますから、はははは」

「はははは、あほ!ほんまに、まあしゃーないなあほんならまけといてよ」
「えーーだから一本にまけときますよって」
「あほかいなそうやなくて、お金やお金」
「はははは、えーーー?そんなむちゃな、まーほんなら一回金半分僕が負担しますから1000円だけください」
「不満やけど許したる、ほんなこれ1000円」

「まあいどありがとさんでーす」
「あこれ娘さんにハンカチ」

午前中に即軽く一本成契だ。
さああと2本昼jからがんばって一日残して目標達成できそうな展開やなあ。

ぶらぶら歩いていると向こうから白いユニフォームの人たちが工場から出てくる。
あーー昼休みかあ、その中で二人連れの若い女性がこちらに歩いてきた。

「あーー毎度お(^_^)、彼女お!ミシン持ってる?」
「えーー?持ってるう(^_^)」
「私も持ってるう」

「えーーどこにい?」
「田舎にあるで」
「えーーそれ古いんやろ?」

「まあそうやけど」
「お嫁に行くとき新しいノンいるで、君も新品でいくねんやろ?」

「えーーーーーっ、まあそらそうや!きゃはははは、この子は古やけどきゃははは」
「えーーこらっそんなんゆうたらあかんきゃはははは」

「あ、今からお茶?いこか」
「えーーおごってくれるん?」
「ええよいこいこ」

二人をつれて近くの喫茶店に行く・・・わいわいしゃべりながら、なんとか契約に持っていこうとするが
契約しとこかなあってところで休憩時間の終わりとなってくる。

「あーーもう時間ない行く」
「ほんなら会社終わってからここで待ってるで話続きしょうよ」

「うんええよ、友達もつれてきてええ?」
「もちろんええで」
「ほんならごちそうさん」

「はいはい、ほんなら5時に終わるんやろ、わかった」

二人が店を出て行く、僕は一人コーヒーを飲みながら算段をする。
やったあ二人から契約取れたらこれで目標達成や友達もつれてくるとなると3本から4本は硬い。
ほんで若い女の子はミシンと編み機、電子レンジとかで2本3本と契約取れるらしい、小松君などは
そんなセールスやるらしい。

わーー一日残してかるくオーバーや、よし今夜の目標6本や、はははははははは。

店を出てあまり個別訪問する気持ちもうせて弁天町の見込み客ところへでも行ってこようと思い立つ。
いつも留守でなかなかあえないのだけど夜5時までじかんがあるし。
電車にのり弁天町に行き道すがら、主婦が表で雑談しているところに割り込んであほ話に時間をつぶす。
売る気はないしワーワー騒ぐだけ、見込み客とこへ行くがやっぱり留守、仕方ないのでまた電車に乗り西九条へ戻る。
時間がたっぷりあるので、高架下のパチンコ屋へ入り時間をつぶす。

4時が近づいて店を出て喫茶店に向かいコーヒーを頼む、なんとゆったりとしか満ち足りたときだろう。
幸せだ。
そのままうつらうつらと居眠りを始める僕。

鴨ねぎは何羽やってくるか、僕は夢の中にいた。

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2006.05.22

セールス秘中の秘9~水曜日~

水曜日の朝礼だ。

「契約2本! 本日の目標2本」

意気揚々の報告であった。
通常は1本あればすごいほめられたりする。。
それを連日複数の契約を取ってくることになった、他には
小松という25ぐらいの男が実績を上げていたが他のものはなかなかその実績を積み上げることは難しいようだ。

これで昨日の3本がたまたまではなかったという思いがあって自信がみなぎってきた。
普通朝から全員で場所を決めて出かけるのだが、締め切り間際でそれぞれの見込み客や得意の地区へでかけることになる。

僕は朝から一人地の利のある港区へ出かける、午後1に若い男の人がやっている縫製業のような店に訪問してミシンのことなど話しているうちに業務用ミシンの買い替えの話となっていって、契約をもらった。
ただし今日古いミシンは持って帰ってくれということ・・すぐ家に戻り、自転車で来てそれを無理やり積みこんでなかば押しながら家までたどり着き家の前に放り出す。

そのあと、鉄筋アパートの上階でよく訪問しては長くおしゃべりする親父の出身地徳島から来ているおばさんに締め切りだからと強引に契約をもらう。

今日はなんとなく契約がとれてしまったような気がする、この日が40年後思い出そうとしても詳細な表情とか心の動きが思い出せない、まあそれほど慣れてきて今までのような震えるような感動はなかったということなのかもしれない。
少しづつ僕は周りが見えない傲慢な男となっていっていたのかもしれない。

でもそれだけの実績を上げることになってきて自信を深めるということは当然の成り行きで僕は舞い上がっていった。

本日の契約2本、後2日、目標まであと3本。

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2006.05.21

セールス秘中の秘8~火曜日~

事務所は締め切り間際となってきてぴりぴりしている・・・
主任連中はそれぞれの部下となにかアドバイスやら激励やら
難しい顔をしている・・・

僕はゆったりとした心で朝礼を迎える。

「昨日の契約!3本!・・内出荷1本!・・本日の目標2本!」

そこかしこから「おーーー」という声が聞こえる・・・・

ふはははは最高だ!
目標としては一日2本でいいわけだから貯金が1できた・・余裕である。

朝礼が済むと全員で今日は西淀川歌島へ向かう、早速みんなセールスに着手散らばっていく。
僕はゆったりとした気持ちで戸別訪問を開始した。

何軒目かで訪問した家は玄関が開放されていたので声をかける。

「まあいど!ミシン屋でっす!」

奥から家人が出てくる・・・・歯を磨きながらのおじさんだ!・・・・・・
男の人はミシンセールスでは歓迎されない・・・しまった・・・

「あーおとうさん毎度お!ミシン屋ですう」

「えっミシン屋って?」

「あーー毎月少しづつ貯めていって欲しいなって時にそれまでの分を頭金に月賦に切り替えるわけですう大変お得な割引になりますので2重におとくなんですう。
まー将来冷蔵庫、洗濯機、編み機、電子レンジなどそのときの最新のものをとれますう・」

歯を磨きながらおじさんは聞いている・・

「そうなんやあホンならとりあえずはいっとくかいなあ」

へっ?・・・うわっ
「あはいはいありがとうございますウ(^_^)」

やったね・・僕は天才やなあ・・はははは・・・・・
意気揚々と、元の場所へ戻ると主任連中がたむろしている。。。

すぐに戻ってきた僕を見てみんないっせいに僕を見る。。。
主任が声をかける・・・

「どうしたあ?」
「はいとりあえず1本ですわあ」
「エッツもうとったんか・・すごい」
「あ主任僕これから港区のほうへ一人で回りますけどよろしいです?」
「あーーいいよがんばってえ」

言い残して僕は一人安治川大橋を目指して歩き始めた・・・・・・

・・・・・・・・昨日の深夜、帰宅した僕に電話がかかってきた・・・
それは今まで居た会社の同期Mであった。
個性豊かで、前向きで技術力あり、実行力があり、本社の僕とも息が合いいろいろな技術の改革をこなしてきた。
日曜日は生まれる前から休みだ、とかサービスマンは30歳が定年だとかの言動に僕は影響されていた。

そんな彼が僕に相談があるという・・・・・

内容は浮気相手が好きになったので離婚してそのこと結婚したいけどどう思う?ってこと・・・・・
長くなりそうだったのでとりあえず会って話をしようとなったわけで今日梅田で落ち合う・・・・ってjことで早い目に仕事を切り上げるにも家に近い港区で一人で営業したかったわけだ。

安治川を目指して歩き出した僕は道すがら外で洗濯やらおしゃべりしている主婦に声をかける。。

「まいどおおおーーくさあんん、ミシン屋さんでっす(^_^)機械調子どう?」

「えーーミシン屋さん?洗濯機調子悪いで!」「えーーーどうわるい?」

家電サービス会社の本社でいろいろなものに興味をもって同僚の仕事に割り込んでいたり一級修理の工場での長期研修を済ませていた僕はすべての家電に詳しかった。

あーー奥さんここ悪いですとりあえず動くように直しときましたあまあ10ヶ月は大丈夫!はははっは
その代わりミシン契約しといてくれます?はははっは故障したらまた来て無料でしゅうりしますからあはははは。

まあそんなたわいないことを話しながら契約をとってしまった。

昼過ぎに2本契約を取ってしまった僕は引き取りのミシンを運びに家に戻り自転車でとりに行く。

夜梅田でMと飲んだ。
若くして会社の可愛いこと結婚して子どももいる、でも仕事場にいる若い子と出来てしまったってお決まりのパターン。。。まあそんなことを人に相談しても解決にも何にもならないわけだけど、本人はそれぐらい苦しいんだろう。

そのとき僕は30前にサービスマンと決別して、正反対の仕事のセールスマンとして次々と契約を取っている得意の絶頂に居た。
微笑みも愛もただ言葉で知る僕であったが、Mをみすぼらしく思い、ただ優越感のなかで相談に乗っていたのかもしれない。
そんなかれはその後何事も起こらず、サービスマンとしてもくもくと働きそれから30年後定年退職したという挨拶状が届いた。


本日の契約2本人生相談一件 締め切りまで後3日 目標まであと5本

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2006.05.19

セールス秘中の秘7~その先にあるもの~

裸電球の街灯がかろうじて僕を照らす・・・・市営住宅の間をとぼとぼ歩いていった。
あーーこのまま僕は負けていくのだ・・・・。
このままでいいのか?僕・・・・・・・・・このままではあかんなあ・・・もう少しがんばろう・・・

とそのときこの先に以前、古いミシンを調整してあげた家があったことを思い出した。
買い換えたいこともないっていってかなあ、ちょうどこの先だしちょっと寄ってみよう。

たしかこのへんだったかなあ、2戸1の市営住宅は庭付きで整然と区画わけされていたのですべてが同じような形になっていて紛らわしいのだ。

確かこの家だったかなあ・・それらしい家を見つけ入っていく。

「こんばんわあ、夜分すみません・・」

奥から若い奥さんが出てくる・・・あっしまった違う!時間がないししまったなあ・・・
まあ仕方ないか少し説明でもしとくか・・・かまちにすわり
「奥さん今度便利なフリーアームのミシンできたんですよ・・・」

たったままぺらぺらめくるパンフレットを眺める奥さん・・・

「ああー編み機もあるの?」

「エッツ あっはははいいありますよ、電子レンジも洗濯機も、掃除機もいつでも好きなものをとれるんですう」

「そんなら入っとくわあ」

「エッツ・・ふあはっははあっはあいぃういありがtっとうごじゃいましゅう」
わーーーー何ということだあ、、とれちゃったあああああ。
てばやく契約をすませそそくさと家を出る・・やったなあああーーひえーー目標達成やんけえ・

ああ時間がない・・あっつそういえばはじめ目指していた家はこの裏だった、、庭の隔てた垣根越しに縁側で涼んでいる女の人に声をかける。。

「まいどおおミシンやでーーす、そのごどうですかあ」

こちらをむいてなにか奥に声かけている・・・
そのとき奥から男の人の大きな声が聞こえた。

「おいっミシンやっこっち来い!」

わっしまった、男や、、夜大声で訪問したから怒られるんかあ?もうデートの時間が迫ってるからしまったなあ。

そそくさと玄関の方へ回り、入っていく・・

「すみません・・・夜遅くうほんともうしわけありません・・・」

「あっミシン屋!古いミシンここに2台あるやんこれどっち下取りしたほうがええ?」

えっ?何の話しい?・・ひょっとしてミシン買ってくれるってことお?・・!!!!!

「えあああっはああいい・・えーーとちょっとみますうう・・・あーーーこちらがもう古くて部品もそろわなくなりますからこちら下取りしましょう・・」

「そうかほんならそれ下取りしてすぐ新しいミシン持ってきてえな。急ぐで」

「あはいはい了解でえええすううううう(^_^)」

あわただしく契約を済ませ内金をもらって家を出る・・・・・・・・・・

わああーーーーーーーなんということだーーーーーー15分で2本もとれたでえ・・ひやああああああ・・・・・
合計3本になったやんけえ・・・

すっかり夜になった道を帰る僕・・すぐ着替えて待ち合わせの場所へ行かねば行けない・・・・・・・・
だんだん小走りになっていく・・

緊張していたのがだんだん解けてくるに従い喜びが湧き出してくる・・・・
はははは・・・・・・・やったぞ・・・ははははははははははははははは・・・

君は暗い夜道を一人走りながら笑ったことがあるか?僕はある・・・・・・・・・・・・・・・・・はははは。

その夜遅く福島のプラザホテル最上階のラウンジで楽団が演奏するサニーにあわせて踊る男女が居た。
あーー夜よこのまま・・・


本日の契約3本 締め切りまで後4日 目標まであと7本

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2006.05.18

セールス秘中の秘6~諦めたときが終わり~

一番の見込み客である此花区へ一目散に向かった。

「まいどお(^_^)ミシンやでーす!(^_^)・・どうですかああはははは(^_^)」

[あーーおにいちゃん! お父ちゃんは入っとってもええんちゃう?って言うねんけどな

よう考えたら、他にもいろいろいるやん、娘ももうすぐ一年生やし」

「ははははそうやねえそれはいえますねえ(^_^)」
そうあいづちを打ちながら僕は上がりかまちに座り込んだ・・これからや勝負は!

「ミシンってなかったらなかったで何とかなりますけど今のミシンは刺繍したりボタン穴
作ったりコンピューターが入ってていろいろな楽しい事が出来るんですよね、
ほんでお母さんがいろいろ作ってくれたって経験は娘さんが一生の宝に出来るんですよね。
ぼくなんかお袋からアップリケなんか作ってもらったことはないですけどお(^_^)」

「はははは、アップリケにいちゃん似合うかも(^_^)」
「えーーーっやっぱり!はははは」

「そうやなあ、この前おにいちゃんに椿の刺繍が入ったハンカチもらったやろ?あれ大事にたんすにしまってやったわあ」

「あーーでもなんかくれるからって知らんおにいちゃんについていったらあかんでっていっとかなあきませんで」

「ほんまやあ、おにいちゃん一番あやしそう!」

「えーーーーーーっつ!・・やっぱりい・・・はははは」

「はははは」

「あそうそう、締め切りまじかで契約もらえたら僕がよろこぶんですう・・お願いしますよ(^_^)、月2000円っていつのまにか使って無くなってるってかんじじゃないですかあ、でも無理やり集金に来られたらいつのまにかたまってくから得した気分?はははは」

「ははははそうやなあ、まそういうことにしとこか、でも娘には近寄ったらあかんで!」
「えーーーーーっつやっぱりいははははありがとうございますう」
「はははは」


やったね!完璧や!・・僕はセールスの天才や!

契約をすまして安治川大橋をわたり港区に入る、ここは僕が住む地元なのでなにかとやりやすい今日はあと一本なんとしてもとらねば・・
軒並み訪問しトークを重ねる・・・しかしなかなか2本目にならない・・・あかんなあ・・・少しあせる・・・・

夕方が迫る・・・港区の南側一帯は2戸1住宅の市営住宅が並び格好の戸別訪問の客先となる。

しかしそれだけセールスマンのターゲットとなるのでなかなか手ごわい。。契約までにいかない・・・

あかん・・時間が・・・・まずい・・・後1本なんとかとらんとカッコつかんなあ・・・・・・・・
だんだん自信がなくなる・・・ただとぼとぼ歩く僕がいた。

そしてそのとき禁断の方法が頭をよぎる・・・知り合いにたのんで契約してもらう方法だ。
そんなことをして契約を取るためにセールスの道に入ったのではないから今までしなかったけどついに僕はくじけそうになる・・どうしょうか・・・・一度その思いにとらわれるとどんどん気持ちがそのことに頼ってしまう・・

セールスにならなくなる・・・・そしてついに僕はその禁断の実を食べる・・・

「もしもしい・・・あーI子さん?僕う・・なあ今晩会いたいなあ・・・いい?・・ほんま?よっしゃあそしたら大阪タワーの下の日産ショールームで8時?OK!ほんならあ」

あーーこれでなんとか頼んで1本契約してもらおう、とりあえず一回だけでもええし・・明日の報告さえ乗り切れればええわけやし。。。
ま一安心・・・・・・・・

町はすっかり日が落ちて、9月に入った市営住宅の街並みは裸電灯の街灯が寂しく浮かび秋の風を感じさせる。
僕はただとぼとぼと歩く・・そのまま家路に向かいただ下を向いて歩く・・・・・・・・・

あーーー僕はなぜここを歩いているのだろう・・・・・・何のためにセールスマンになったのか・・・・・・・・・・
街灯に照らされた僕の影がゆらゆらゆれて僕にまとわりつく・・・・・・・

あーー寂しい・・・・・・・・・あかん僕はセールスマンなんかにはなれない・・・資格はない・・・・・・・・・
午前中得意の絶頂に居た僕は、夜絶望の芥となってとぼとぼ家路に向けて歩を運んでいった。

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2006.05.16

セールス秘中の秘5~月曜日の朝礼~

月曜日、朝礼前の事務所はわいわい騒がしかった。
昨日の日曜出勤での成果や苦労話でみんな盛り上がっていた。
一人僕だけ蚊帳の外で静かにそんな風景を眺めていた。

昨日は女の子達が家にやってきて僕達バンドの練習風景など
づっと見ていてくれたりして可愛いチエコとはなんだかいつもめが
あったりして楽しかった・・・・そんなことを思ったりしていたとき、
机の前に居た林主任が「おいこれ報告しとけ!」
といって僕の机にポンと投げ出したものがある。

それは2件の契約書と、現金4000円だった。

えっ!・・・・あーー日曜日主任は僕のためがんばって2件も契約を
取ってくれたんだ・・・・・・・・・

「・・すみ・ません・・・」

朝礼が始まった・・僕の番が来た

「契約2本・・・本日の目標・・・2ホン・・・」

取れるわけないけどどうしてもそういわなければいけない羽目に
陥ってしまった。

朝礼が終わって林主任に僕は言った。

主任!すみませんでした、僕は30本の目標は今回はいいです、主任
は新里君を応援してあげてください、そして僕は自分の目標として10
本をがんばります。

そう告げた僕は熱い戦いの炎が全身を貫いていた・・・やるしかない・・
此花区の見込み客のところへ出かけていった。
そこは以前椿の刺繍入りのハンカチを女の子にって言ってあげたことが
あって、契約は主人と相談しとくってことだったので超有望客であった。

さーやるぞ僕の今までの人生のすべてをこの5日間にぶつけてやる!
そんな決意が体中を駆け巡っていた・・・・・・・・・・・・・・


本日の目標2本  締め切りまであと5日残り10本

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2006.05.15

セールス秘中の秘4~闘争か逃避か~

9月4日は土曜日、新里君と僕に話をする林主任。

「この10日までに累計契約が30本にして準優秀販売員の資格を取ることが
目標やったけど君はこの間はじめたばかりやからまだ8本や。

新里君は20本やからあと10本。君は22本や。だから10日までに二人とも
後10本取れ!君の足らない分は私が取ってきて足してやるから、これは所長も
君が年を取ってるから早く一人前の販売員にしてやれと言ってる。
がんばれ。」

「はいがんばります」

主任は続ける、
「そこでやあしたは日曜日やけど店の全員最後の追い込みで出勤して販売に
回るから」

僕は答える
「あっつ明日はダメです、用事があります」
日曜日はバンドの練習日であった。

特に明日は一月ほど前日本海にみんなで遊びに行って浜辺で仲良くなった
女の子4人グループを家に呼んでることもあって絶対だめ!
日曜日は僕の生まれる前から仕事は休みと決まってる・・はははは

情けなさそうにしている主任に少しは申し訳ないわけだけど本当は僕は
契約本数はどうでもよかった。
一度セールスを経験したかっただけだし・・・自分を前面に押し出す練習を
してきた僕は意に介さなかった。はははは。

生涯忘れることのない熱い夏の1週間の始まりであった。

つづく

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2006.05.14

セールス秘中の秘3~訪問恐怖~

初成契から自信が少しはもてるようになって、契約も何件か取れたぐらいから
いい感触なのに契約にいたらなかったり、冷たくあしらわれたりすることが続くと
だんだん、訪問することに恐怖を覚えるようになってきて、玄関まで行くのだが
扉をたたけない状態が続きだした。

そのままとぼとぼ歩くだけの日が続いた・・・
ある日づっと歩いていると淀川の堤防に行き当たった・・・・・・
そのまま堤防に座り込み、川の流れを眺める・・・・・・・・・・・・・・

やっぱりセールスは無理か・・・・・・・・・別に契約をとって成績を上げることが
目的ではなかったんだし、一度経験してみたかっただけだし・・・・・

でもこのままでは新しい道へ進むにも自分をごまかして生きていく羽目になる
かもなああ・・・・・・・・・
なんで扉を開けるのさえ怖くなるんだろう・・・・・・・・
前のお客さんに冷たくあしらわれたことで次のお客さんもそうだと思ってしまうわけだ。

でも次のお客さんはまったく無関係で新しい関係なんだよなあ・・・・・・
ってことはいつも自分の気持ちを初心に戻して、明るくなければお客さんは引いて
しまうのかもしれない。

「売りたい」「売れないかもしれない」そんな気持ちが顔に出るんだなあ・・・・・・
そうかあ・・そしたら「売らない」で訪問してみよう・・・笑顔だけを配って歩こう・・・・・

それから、「(^_^)まいどーーみしんやでーーーすううう(^_^)」
「(^_^)あいや今日は挨拶だけでこの辺まわらせてもらってまあすう(^_^)」
「(^_^)どうもお・ではよろしくうう(^_^)」

そんなことを繰り返しているうちにすっかり平常心に戻ることができ、少しづつ
契約が取れるようになっていった。

つづく

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2006.05.13

セールス秘中の秘2 ~初成契~

民家への戸別訪問販売は当時でもなかなか厳しいものがあった。
何かがあったのかミシンセールスだと言うだけで侮蔑し、激しい
言葉を投げる人もいたし、まだ、ドアの中に足があるのにばたんと
閉める人とか何も言わずゆっくりと踵を返し部屋の奥へ戻っていっ
てしまう人もいた。

そのようなことを一日70軒はドアをたたく、そのうち本来のセールス
トークが出来るのは10軒ぐらいなものだ。
毎日毎日場所を代えじゅうたん爆撃のようにつぶしていく。

話を聞いてくれたところは見込み客となってひかえのカードに残して
いく。
割賦販売の契約が取れたらその場で一回分の2,000円をあづかる。
そのうちの何割かは給料日にセールスマンに戻ってきて6か月分が
重複していく、出荷時点で4,000円ほどの手当てがつく。

大体月20本の契約をコンスタントに取っていけば半年後ぐらいからは
歩合給料は現在の感覚で30万円ぐらいとなり、まあ家族を養っていく
ことが出来る。
休みを考えると一日一軒取れれば大成功というわけだ。

でも初心者は売りたい意識が強すぎて客も敬遠し、なかなか取れない
もので、春から3ヶ月ほどの活動をしている先輩達でさえ10から20件
しか契約は取れていなかった。

それもついている主任が取った契約をもらってのことであるから厳しいも
のがある。1週間に1件ぐらいのペースで来ているわけだった。

一件も契約が取れないでいた僕はある夕方集合場所に戻ると林主任
が居た。

「主任さん・・・だめですう・・・むづかしいですう・・話が出来ないんです」
「はははは・・そうかあ・・・君にはコツを教えよう・・大丈夫・・・
あのな家の中にとりあえず入るやろ、そこでや  おくさん!まあこれ見て
くださいっていいながらパンフレット広げながらそこへ座るんや」

「はあ・・わかりましたやってみます・・・では行ってきます」

そんなことですぐうまくいくわけないとは思いながらとにかくなんかいろいろ
やってみないことにはと入っていく民家を物色するがなかなか入れない。
自信をなくすとなかなかドアーを開けることさえ出来なくなってただ前を歩く
のみとなるのだ。

やがて行き止まりの長屋の端に来て一軒の民家の格子戸を開けた。

「こんにちわーーミシンやですう」

奥から若い奥さんらしき素敵な女性が出てくる。
立ったままこちらを見下ろし、「ミシン要りません!」・・・

今までならそこで「そうですかどうも・・・・」って出て行ってたわけだ。

「あーー奥さん実はですねえ新しいミシンが出来たんですよ・・・」
いいながら僕は上がりかまちに座り、セールスツールのパンフレット
を閉じたノートを広げる・・・・・

「あこれなんですけどね、フリーアームって言って業務用でしかなかった
ものをはじめて家庭用で実現したんですよ」・・・言いながらパンフレットを
ぱらぱらめくる・・

奥さんは仕方なくその場に座る・・・

「あ、今忙しくて刺繍したりアップリケつけたりって時間が取れないってと
きでもいづれそんなゆとりが生まれたときいつの間にかたまっていて安く
そのときの最新式の機械がもらえてその後はやっぱり月2000円づつで
いいのでお得ですよ!」

なんか言いたいことが言える。。こんな感じなんだなあ・・って思いながら
言葉をつないでいると・・・

「あーーミシンやさん・・そしたら私・・入っとくわ!」

「えっ?・・・・」瞬間事態をよく飲み込めない僕が居た・・・・・「えーーと・・・」

「あっ!はいありがとうをごじゃいましゅ・・・」思っても居なかった展開にうろ
たえる僕・・・わーーー契約を取れてからの練習などしてなかったあ・・・・・・
契約書に住所など書いているうちに震えてくる・・・・なんとか書面も作り
一回金の2000円を預かり、深々と頭を下げその場を後にする・・・・・・・・・

出てからとにかくその場から出来るだけ離れる・・・だんだん・事態が飲み込
めてくる・・・わーーー契約を取ったんだああ・・・心の奥から喜びが沸いてくる。

そのまま家路に戻る安治川の源兵衛渡しの上に居るとき、西に夕日が落ちていく・・・
真っ赤に染まる河口を眺め、なんとかセールスマンがやっていけそうな思いが
沸いてきて幸せで、暖かかった。

奥さんに領収書を渡していなかったのに気がつくのは翌日のことであった。

~初成契~完

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2006.05.12

セールス秘中の秘

1971年8月僕はセールスマンとなった。

その店は幹部候補生の研修施設として春に開設されたもので
地方から集められた幹部候補生はそこで町に出てセールスマンを
勧誘し2名を部下とし、セールスコンテストをして9月10日までに
30本の契約をとらせ準優秀販売員の資格を取得させることが
目標であった。

ほとんどの販売員はすでに春から活動を開始しており、着々と
契約を積み重ねていた。
林主任の部下は僕とそして春から活動している新里君であったが
新里君は若くてなかなか実績が上がっていなかった。
僕は2日間ほどの事務所での基本講義とミシン刺繍の練習を
すませてみんなと合流し、民家の訪問販売に入っていった。

販売のシステムは、当時ミシンは割賦販売という方法が主流で
毎月2000円を集金人が集金に行き貯めていく、機械がほしく
なったときにそれまで貯めていた金額に加えて不足分を足して
出荷されるというものであった。

現金で買うより3割ぐらい安くなる、ミシン以外に電子レンジ洗濯
機等の家電品も扱っていて手軽な高金利の貯金というような
性格のものであった。

朝礼で、昨日の成績を各人が報告し本日の目標を宣言し、全員で
その日の活動場所へ出かけ昼過ぎ一度指定した場所に主任が
待っていて途中経過を報告しまた販売に取り組む。

そのまま活動を済ませたら店に戻るもよし、直接帰宅する。

みようみまねで一人での活動に入っていったがなかなか思うよう
にはいかないものでまったくセールスにならない2,3日が過ぎて
いった。

「こんにちわーーミシンやです」
「あーいいわ」

「どうもお・・・・・・」
あかんなあああ・・だんだん自信もなくなり昔の弱気な
心が戻ってきて疲れる・・・・
こんなんでは売れるわけないなあ・・・・・・
虚しく時間が過ぎていく・・・・・

セールス秘中の秘1 ~入門~ 
続く

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